当ブログには非常に少数ではございますが、ありがたいことに繰り返し訪れていただいている、いわゆる常連様がいらっしゃるのですが、そのような方々には「またシグネットリングの話か」と辟易されてはいないかと気が気ではないのですが、
それでも当ブログのような極めてニッチな記事群をご覧いただいている、私と同じようにヴィンテージを愛する方々であれば、きっと優しく受け止めていただけるであろうという、
非常に楽観的かつ希望的観測だけを支えに、今回もしつこくシグネットリングについてお話をさせてていただければと思います。
さて、遡れば古代エジプトに起源を持つとされる、魅力に溢れるシグネットリング には、近年多くのファッショニスタたちが熱い眼差しを送っています。
The Portable Antiquities Scheme/ The Trustees of the British Museum, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
主張しすぎず、それでいて洗練されたフォルムに、自ら(所有者)のものであることを示すモノグラム(刻印)が手彫りで丁寧に刻み込まれたこのリングには、えも言えぬ存在感が確かにあります。
その歴史の深さに魅力を感じ、アンティークやヴィンテージのシグネットリングをお探しになられる方も沢山いらっしゃることと思います。
しかし実は市場にそれらが出回ることは非常に珍しく、仮に出回っていたとしても目を疑うほどの高い値段がつけられていることがほとんどです。
今回は「なぜシグネットリングはアンティーク・ヴィンテージものが市場に出回ることが少ないのか」について、あくまで私の考えではございますが、大きく3つの理由をご紹介していきたいと思います。
※シグネットリングの深い歴史については、シグネットリングの知られざる歴史においても詳しく記載しておりますので、是非ご一読ください。
第1の理由:シグネットリングは代々受け継がれていたため
古代エジプトに起源をもつとされるシグネットリングですが、現代のように洗練されたスタイルに落ち着いたのは、中世ヨーロッパの頃であると考えられています。
The Portable Antiquities Scheme/ The Trustees of the British Museum, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
その頃金で作られ、さらには宝石が埋め込まれたりもしていたこのリングは、当時貴族や一部の富裕層のみが身に付けることができました。
そのように高価な素材を使用し、一流の職人たちにイニシャルや家紋を掘らせたり宝石を埋め込んだりと、シグネットリングは当時非常に高価なリングでした。
そのため貴族は世代が変わるごとに自らのシグネットリング を制作するというよりは、父から息子へそしてその孫へと、世代間でリングを受け継がれることが一般的であったとされています。
そのようにして受け継がれてきた大事なリングを売ろうと考える人は当然ほとんどいないため、結果的には古いシグネットリングはほとんど市場には出回らない。ということになるのではないかと思われます。
第2の理由:シグネットリング は持ち主が亡くなる際に破壊されていたため
「シグネットリングが破壊されていた」とお伝えすると、「なぜそんなにもったいないことをするのか」と嘆かれるお方もいらっしゃるかと存じますが、このリングが持つ力を知っていただければおそらくはご納得いただけるかと思います。
当時このリングは、単なる装飾品としてだけではなく封蝋(手紙や書類の封筒に、溶かしたロウを数滴垂らしその上から印で閉じること)をしたり、法的な書類に署名をする際にも使われたいわば”印鑑”としての重要な役割を持っていました。
<エドワード2世の肖像画>
※このことは、エドワード2世(1284年-1327年)が当時「すべての公式文書には王の印環(シグネットリング)で署名しなければならない」と布告し、一般的となりました。
ここで一つご想像いただきたいのですが、王が亡くなった後で誰かがそのシグネットリングを盗み(または複製して)、公式の文書に印を押したとしたらどうなるでしょうか。
そうです。シグネットリングは”持ち主の死後も残っていれば、公式文書がいともたやすく偽造できてしまう”という大きなリスクも持ち合わせていたのです。
そのため、シグネットリングの多くはその持ち主が亡くなるのと同時に、破壊されてしまうことがほとんどだったのです。
その際には、定められた儀式をもって丁寧に破壊されていたそうです。
追記(2020年8月26日):シグネットリング に関してはこれまでもいくつかの記事を書かせていただいておりましたが、先日ある映画の中で偶然ですが、実際にシグネットリングが破壊される儀式が描かれたシーンを目に致しました。
にて言及しておりますので、ご興味がおありになられる方は是非ご覧ください。
実際に動画も掲載しておりますので、きっと「これが破壊の儀式なのか」と感動していただけるかと思われます。(感動までするのは私だけかもしれませんが。。)
そのため、現存するアンティーク・ヴィンテージのシグネットリングを探し出して手に入れるということは、非常に困難な状況となっているのです。
第3の理由:手放したくない魅力があるため
Metropolitan Museum of Art , CC0, via Wikimedia Commons
第1、第2の理由を潜り抜け、市場に出回るアンティークやヴィンテージのシグネットリングも、確かにあることはありますが、その数はとても少なく、もれなく高価です。
そのような希少性が高いリングをようやく手に入れた持ち主に、「リングを売りたくない」という気持ちが生まれたとしても、決して不思議ではありません。
そして何より、シグネットリングが持つ歴史的な価値や、その魅力を感じている持ち主からすれば、叶うことならば永遠に自分の手元に置いておきたいと思うことは、至極当然とも言えます。
仮に私がアンティークのシグネットリングを手に入れたとしたら・・・やはり誰にも渡したくはないと思います。
さらに言えば、多くのアンティークリングはその背景から歴史的な価値を持つものが多く、貴族や王族の貴重な装飾品として、美術館や博物館に寄贈され展示・保管されることも少なくありません。
事実、当カントリージェントルマンのブログ内でご紹介させていただいているシグネットリング の画像の多くは、そういった博物館・美術館が公開しているものがほとんどであり、
これこそがアンティーク・ヴィンテージのシグネットリング がほぼ市場に出回らない理由ではないかと感じております。
また、シグネットリングは単に金や銀などの金属のみで作られたものばかりでなく、石を台座として石に彫り込みを入れたものも多数存在しており、そちらも非常に美しい魅力を放っています。
詳しくはをシグネットリングと石(ストーン)の素晴らしき融合 ご覧ください。
アンティーク・ヴィンテージアクセサリーとしてのシグネットリング
これら3つの理由を運よく?潜り抜けたシグネットリングは、ごく少数ながら市場にも出回ります。いつかは私も特別なものを手にできればとは思いますが、そう簡単なことではないことも理解してはおります。
皆様がもし運よく、その特別なアンティーク・ヴィンテージのシグネットリングを手に入れられた際には、是非ご一報をいただければと思います。
ここまで駄文ばかりを書き連ねておりましたが、最後までご覧いただきまして誠にありがとうございます。
実は現在ブログの更新が滞っておりますのは、新たな試みを行っていることが要因の一つとなります。
その試みの名前は”Time Paradox”なるものとする予定であり、ヴィンテージアクセサリーというものを”再構築”し全く新しいものへ生まれ変わらせるものです。(ひどく仰々しい物言いとなり、恐縮ではございますが)
その試みがうまくいったならば、まずはこちらのブログにてまずは皆様へお伝えさせていただければと考えております。
それではまた、そう遠くない日にお目にかかります。
Country Gentleman
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