
遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
Country Gentlemanでございます。
昨年末はとうとう世界的疫病に感染し、日々の健康の大切さを思い知る年末となりました。
現在は回復し、ようやく徐々に活動を再開させていただいております。
また、私事ながら月末〜来月初めには、妻が出産の予定となり、何かとバタバタ忙しい日々となりまして、
新作の発表も記事の更新も滞っておりました。
...なんとも言い訳がましい書き出しとなりましたが、改めまして皆様本年も何卒よろしくお願い致します。
※こちらの作品の詳細につきましては、後述させていただきます。
2022年のカントリージェントルマン

昨年目標とした「毎月一つの新作発表」については、実現ができないままとうとう年が明けてしまいました。
目標が達成できなかった自分をしっかりと自戒しつつも、同時に「もしその目標がなければ、ここまでは頑張れなかったかもしれない」という思いも抱いております。
過去にどこかで触れたビジネス書にも
「目標はとにかく大きく。100を目標にしていたら、70-80で終わってしまう」
といった意図の表現があったことをふと思い出し、「確かにその通りだった」と妙に納得してもおります。
個人的には一つひとつこだわりを持って制作し、妥協せずに良い作品だけをご紹介ができたことだけは、
密かに自分で満足してはおりますが、
いずれと致しましても、
昨年作品をご購入くださった皆様、非常にニッチな情報しかお届けしていない本ブログをご愛読いただいております皆様には、改めまして心より御礼を申し上げたいと思います。
2023年のカントリージェントルマン

さて、では今年のカントリージェントルマンは、どのように歩みを進めていくべきか、
ここ数日折に触れて考えておりました。
そこで、昨年初めにもブログで触れたことがある言葉を、また思い出すことになりました。
「驚きは人類の最上の部分である」

これはヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテがその人生のほとんど全てを費やして完成させた偉大な作品、
「ファウスト」第二部六二七一行の言葉です。
これまでカントリージェントルマンは、特に2つの驚きに喜びを感じここまで歩んできたように思います。
1つは「知られざる歴史に出会った時の驚き」、もう一つは「これまでにない作品を生み出せた時の驚き」です。
IDブレスレット、スプーンリング、シグネットリングなど、様々な知られざる歴史を日本の皆様へご紹介してまいりましたが、
私自身そのような歴史に触れ、調べを進めていくうちに、自らの心の底から湧き起こる新鮮な驚きにいつも胸を躍らせています。
(その熱量のままに身近な人間にその歴史を語った際には、優しい苦笑いを返されるだけではありますが)
また、一般的には価値がないと思われるヴィンテージ素材を見つけ出し、そこに新しい命を吹き込むことは、
どれだけ経験を積んだとしても、いまだに頬の緩みを抑えきれないほど、嬉しいものです。
そんなイメージがぐるぐると頭の中を駆け巡るうちに、今年のテーマが定まりました。
2023年のテーマ
それは、
「自分にもあなたにも、驚きを。」
というなんともふわりとした、それでいて難しいテーマです。
売れ線、という言葉があります。
すでに一定の人気を獲得しているジャンルの作品や、商品。
その路線を踏襲しさえすれば、ある種の安定が手に入るどこか麻薬のような魅力を持つ言葉です。
しかし売れ線とは同時に、自分からもその作品の受け手の方々からも、
「驚き」
というとても大切なものを奪ってしまうのではないかと、なんとなく感じています。
何度も言いますように、このブランド自体は私の生業ではありません。
だからこそ、自分の心がときめいた瞬間を見逃さないよう、
そして何より作品を受け取ってくださる方々に嘘だけはつかないように、大事に活動を続けてきました。
2016年にブランドを始めてから、これまでに一度もクレームを頂戴したことがないということも、
そんな想いを抱きながら活動をしてきたことに一因があるのかもしれないと、ふと思い至ることもあります。
(とは言いつつも、本心では「素敵なお客様に巡り合ってきただけじゃないか」と深い感謝の気持ちと共に自らを戒めてもおります。)
少し脱線してはしまいましたが、今年はこんな小さなブランドを愛してくださる皆様へ、
そして自分自身が常に新しい驚きを得られるような、新しい作品を生み出していければと考えております。
グラフィティからサインペインティングへ
さて、私が今最も熱い眼差しを持って見つめている文化の一つに、サインペインティングなるものがあります。
もともと私は絵を描くことが好きで、高校生の頃にはブレイクダンスなど初期のヒップホップ文化に触れ、
「WILD STYLE」などを食い入るように何度も繰り返し見ていたこともあります。
その頃に出会ったのが、グラフィティアートと呼ばれるものです。

※私がNY滞在時に撮影したうちの一枚。グラフィティの聖地と呼ばれた"5Pointz"で出会いました。
グラフィティアートとは70年代のNYで誕生した初期Hiphopの4エレメントのうちの一つであり、
数々のグラフィティアーティストたちが電車や路線脇の建物などに、思い思いのデザインで仕上げた独自性あふれる文字を、それぞれがスプレーで吹き付けていきました。
また、グラフィティの書き方には主に3種類のスタイルがあり、
タギング
スローアップ
マスターピース
の3種類が存在しており、下の名前になるほど描くのに時間もかかり、色も多くサイズも大きく複雑なデザインになっていきます。
参考までに、まずこちらの画像の上の標識に書かれているのがタギングです。
いかにも簡単に描けそうなことがお分かりいただけるかと思います。

Yann Kemper, CC0, via Wikimedia Commons
以下の画像の左にあるグラフィティがスローアップ。タギングより少し手間がかかるデザインとなっています。

Mostafameraji, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
そして以下の画像のようなグラフィティを、マスターピースと呼びます。

Tag, Elkstone Road W10 by Robin Sones, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
文字の中に様々な要素が詰め込まれており、光の照らされたような陰影や矢印などがデザインされています。
さらには飛び出してくるような影や、背景にまで手が加えられています。
グラフィック勃興期には、それぞれのグラフィティアーティストたちは縄張りを持ち、その縄張りはほとんどが
電車の路線で分かれていました。

※1984年NYの地下鉄で撮影された一枚。今では考えられませんが当時はよく見られた光景でした。
https://www.flickr.com/people/sweet_child_of_mine/, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
彼らは「我こそが最高である」ということを内外に示すため、前に書かれた作品の上に上書きをする形で自らの作品を吹き付けていきます。
これがいわゆる”ゴーイングオーバー”と呼ばれる文化の一つであり、この文化があったことで作品のクオリティは
どんどん向上していくことになります。
ちなみにゴーイングオーバーには厳密に言えば一つのルールがあり、それはゴーイングオーバーをするときには、
タギング、スローアップ、マスターピースの順で上書きをしなければならないというものがありました。
(例えばマスターピースの上にタギングをすることは、ルール違反に当たりました。)
80年代になると、線路の周りでは電車に落書きをさせないために雇われていた警備員たちが警備に当たっていました。
タギング、スローアップ、マスターピースは、実は「描くために時間がかかる順番」で並んでおり、
警備員に見つからないようにするためには、塗りつぶす必要もなく1色で描き上げられるタギングを描くほうが安全であり、塗りつぶす必要があるスローアップは危険性が増すことになります。
さらにマスターピースを描くためには、複数の色と凝ったデザインを吹き付ける必要があるため、
さらに危険を強いられることになりました。