多忙にかまけて、更新がかなり遅れてしまいました。
ご無沙汰しております、カントリージェントルマンです。
今回は新たな商品「ヴィンテージアルバートチェーンフォブネックレス」のご紹介と、このヴィンテージにまつわるあまりに深い歴史をご紹介してまいりたいと思っております。
ご興味をお持ちいただけました稀有な読者の皆様におかれましては、ぜひ気楽なお気持ちでゆっくりとご覧いただけますと幸いです。
新商品「ヴィンテージアルバートチェーンフォブネックレス」
今回ご紹介する新商品は、ヴィンテージのアルバートチェーンに取り付けられていた、”フォブ(Fob)”と呼ばれる、一種のアクセサリーを、そのままネックレスへ生まれ変わらせたものとなります。
ホールマークが打刻されており、私が所有するホールマークブックによれば
「製造メーカー(工房)はJ.S、試金鑑定所(アッセイ・オフィス)はバーミンガム、1885年に製造(約137年前)」
の作品であり、英国の法律に照らしてその品質が認められた銀製品であることがわかります。
(年代に関しましては、画像を参考にご確認くださいませ。)
表面と裏面には、「ブラッドストーン」と「カーネリアン」の2種類の石が埋め込まれており、暗緑色とオレンジの輝きを楽しめるアクセサリーとなっております。
また、それぞれの石には古代から以下のような意味があると信じられてきました。
ブラッドストーン:別名「殉教者の石」と呼ばれ、赤い斑点があることから古くから”血”と深いつながりがあるとされており、「血の流れを良くしてくれる」「出血を止める」などの意味を持ち、転じて騎士のお守りとして身につけられることが多く、「何かに立ち向かう力を与えてくれる石」として愛されてきました。
カーネリアン:古代エジプト時代から愛されている石であり、シグネットリングにも良く用いられてきました。石言葉としては「勝利」「勇気」などが与えられています。
このような意味合いを考えますと、当時の持ち主は「何かに立ち向かう勇気」を与えてほしいという切なる願いを、このフォブに込めたのではないかと思われます。
特徴的なのが、これらの石は固定されているのではなく、クルクルと回転させることで好きな面を表にすることが容易になっているという点です。
そのため、身につける方の気分に合わせて好きな面を正面にすることができます。
実はこの回転のギミックは当時の貴族・紳士がこのフォブを回転させることで、手持ち無沙汰(時には禁煙のイライラなど)を解消させるために作られた、とも言われております。
素材はスターリングシルバー(純度92.5%の銀)であり、丁寧なクリーニングを施すことで当時の美しさを蘇らせております。
ヴィンテージアクセサリーは数あれど、このような意匠が施されたものは少ないのでは、と勝手ながら思っております。
1点限りの入荷となりますため、是非この機会にお試しをいただければと思います。
アルバートチェーンとは
さていよいよここから、この新商品に関する味わい深い歴史についてご説明させていただくことと致します。
そもそもアルバートチェーンとは、
「懐中時計を身につける際に、落としたり紛失したりすることのないように取り付ける鎖」のことを指します。
(また一説には「高価な懐中時計を所有している」という、ある種「富裕であることの誇示」の意味も込められていたとも言われています)
言葉でお伝えすると分かりづらいかと思われますので、まずは以下に着用例を示します。
※こちらはイギリスで1863年から1872年の間に撮影された、紳士の写真です。着用しているチョッキ(ベスト)のボタンの穴から、ポケットに向かってチェーンが伸びているのが確認できます。
懐中時計がこの世界に登場したのは16世紀ごろであったと言われており、一説にはニュルンベルクの時計職人ペーター・ヘンライン(1485-1542) によって開発されたとされます。
(とはいえこの説は怪しいとの反証もあります。)
懐中時計が当時の紳士たちの間で流行したのは、チャールズ2世(1630-1685)が1675年にチョッキ(ベスト)を導入した事に端を発しています。
John Michael Wright , Public domain, via Wikimedia Commons
(彼に関する興味深いエピソードについては、別記事「紳士とは一体何か。」にもまとめております。)
どんなものでも、歴史上に登場したばかりの頃には大きなサイズであり、それが時を経るにつれ小型化が進むという傾向があり(携帯電話やPCも同様)、
御多分に洩れず懐中時計も、その黎明期には持ち運ぶには少し大きすぎるほどのサイズであることが普通であったようです。
その後小型化が進み、ペンダントのように首から身につけられるまでになった初期の時計(Clock-Watch)は、
チョッキの誕生によってポケットに入れて持ち運ばれるようになっていきます。
(こちらは16世紀に製作された初期の持ち運び用の時計であり、ドイツ人のPeter Henleinによって製作されました。我々が考えている懐中時計よりは、少し大きく角張っている印象があります。)
また上記の画像のような初期の持ち運び用の時計が"Clock-Watch"と呼ばれる理由として、
”Clock”は置き時計などの”持ち運べない時計”を表しており、
”Watch”は懐中時計などの”持ち運べる時計”を表していることから、
つまり”Clock-Watch”と表記されているのは、この二つの過渡期に誕生した時計であったことを示している可能性があります。
さらにいえば、その後誕生した懐中時計は英語で”Pocket Watch”であり、このことからも懐中時計=ポケットに入れる時計として認識されていたことがわかります。
ちなみに懐中時計といえば、滑らかな円形をしており、四角や尖った形などのものを見つけることはほとんどないかと思われますが、これはポケットに入れる際に引っかかったりすることを防ぐためとされています。
事実、初期の懐中時計は先ほどのようなゴツゴツした形や、球体をしているものもありましたが、
チョッキの登場により、ポケットに入れやすい滑らかな形状へと進化していきました。
アルバートチェーンの登場
その後いよいよアルバートチェーンが登場する事になりますが、実はこの「アルバート」はある人物の名前からつけられました。
その由来となったのが、本ブログ(”死”とヴィンテージアクセサリーの歴史)でも登場している「喪服の女王」ヴィクトリア女王(1819-1901)の、最愛の夫であったアルバート王子(1819-1861)でした。
アルバートチェーンの特徴としては、主に「Tバー」「スイベルフック」の二つが挙げられます。(「ドロップ」と「フォブ」については後述します。)
そもそもこのチェーンは、「懐中時計を落としたり紛失しないように衣服につける」ために作られました。
Joe Haupt from USA, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
(こちらは1909年ごろの懐中時計です。時計にかかっているフックがスイベルフック、チェーンの末端についている棒のようなものがTバーです。)
そのためまず片方の端に取り付けられた「Tバー」と呼ばれる留め具を、チョッキ(ベスト)のボタンの穴に入れることで、落としてしまうことを防ぎます。
次にもう片方に取り付けられた「スイベルフック」と呼ばれるクリップを懐中時計に付けることで、破損や紛失から守ることができました。
このチェーンをアルバート王子は常に身につけていたとされ、その様子にちなんで「アルバートチェーン」の名が付けられました。
※可能な限り正確な情報をお伝えできるよう情報を吟味しながら執筆しておりますが、誤った情報などございました際はぜひ当方までご連絡ください。
皆様からご指導ご鞭撻を頂戴することで、少しでも成長できればと自分自身願っております。
特にアルバートチェーンに関してはアンティークの部類に属していることから、日本国内では私などよりも精通された先達の皆様が様々な記事をご執筆されておりますため、ぜひそちらも検索・ご覧になっていただければ幸いです。
「ドロップ」と「フォブ」
さて、先ほどアルバートチェーンの2大要素として「Tバー」「スイベルフック」を挙げましたが、実はこちらでご紹介する「ドロップ」と「フォブ」こそ、
当時の紳士がそれぞれの”オリジナリティ”を発揮できる重要な要素でした。
まず「ドロップ」とは、ボタンの穴に入れてチェーンを固定するための金具「Tバー」の部分から垂れている短いチェーンのことを指します。
「Tバー」をボタンの穴に入れると、この「ドロップ」が垂直に垂れるようになっていました。その「ドロップ」の先端に取り付けるのが「フォブ(チャーム)」と呼ばれる飾りでした。
※こちらは1894年にワシントン州シアトルで撮影されたとある紳士の写真です。アルバート王子は1861年に死去しているため、この写真撮影時にはすでにアルバートチェーンは一般的にも身に着けられるようになっていることが分かります。
このフォブに何を取り付けるかによって、それを身につける人それぞれの個性が表現されていました。
Joe Haupt from USA, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
(こちらは1916年頃の懐中時計です。チェーンの先には今回のフォブ同様ブラッドストーンが埋め込まれています)
「フォブ」の種類は様々あり、具体的には以下のようなものがありました。
コイン、メダルなどの硬貨
紋章、タグ
コンパス
シール(シグネットが彫られたスタンプのようなもの)
宝石、石
ロケット
この他にも様々なフォブが存在しています。
時を超えて受け継がれるヴィンテージ
ここまで、アルバートチェーン、そしてフォブにまつわる奥深い歴史を紐解いてまいりました。
このような歴史・背景を知った上で今回のヴィンテージに目をやると、何も知らずに手に取った時とはまた違った印象を感じます。
私は、実はその瞬間こそをこよなく愛しています。
「なぜ回る機構が組み込まれているのか」「なぜカーネリアンとブラッドストーンなのか」「そもそもフォブとは何か」など、
手に取っただけではわからなかった味わい深い歴史を掘り出すたびに、手に取ったヴィンテージはその重みを増し、さらにその輝きまでもが一層強まるように感じます。
ぜひ皆様にも本作だけではなく、その背後に隠れていた歴史・ストーリーも含めまして、愛して頂ければ幸いです。
Country Gentleman
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