第二次世界大戦が終結し、世界恐慌による影響も日に日に薄れてきた1950年代。人々はそれまでの不安を振り払うかのように、よりカラフルできらびやかなアクセサリーを身にまとって街に繰り出すようになっていきました。
ヴィンテージ素材をリメイクし、新しいヴィンテージアクセサリーを生み出している当ブランド、カントリージェントルマンが独自の視点から、今回は1950年代に焦点を当て、当時の人々が愛したアクセサリーについてお話ししていきたいと思います。
1950年代とは
1940年代の暗い雰囲気は、1930年代から続く世界恐慌と、第二次世界大戦によってもたらされました。
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しかし第二世界大戦が終結し世界恐慌の影響が薄れて来ることで、徐々に経済も人々の生活も上向きに改善されてきました。
また、戦争が終わったことにより多くの素材が手に入りやすくなり、1940年代までの数少ない素材から何とかアクセサリーを作るという涙ぐましい努力からは一転して、贅沢な素材をふんだんに使用したアクセサリーが多く作られ始めました。
経済が上向きになるにつれ、女性たちの消費もどんどん増え始めます。この頃から世の男性たちはより高価なアクセサリーを女性に送る必要が出て来ることになるのです。
1950年代の女性のファッションスタイルとは
SpiritedMichelle, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
1950年代の特筆すべき点は、それまでの女性のファッションを一変させたディオールの伝説的なコレクション(コーラルコレクション,1947年に発表)による影響でしょう。
当時42歳であったクリスチャン・ディオールは、戦時中の抑圧されていたスタイルをガラリと変え、女性らしいラインを強調させた”8ライン”と呼ばれるスタイル、通称”ニュールック”をこの世に誕生させました。
抑圧・我慢を強いられていた当時のファッション業界にこれが熱狂を巻き起こします。
ウエストをキュッと絞り、同時にミドル丈のフレアースカートが腰部を緩やかに見せてくれるこのニュールックは瞬く間にアメリカ女性の憧れの的となり、一気に流行の最先端へと躍り出たのです。
そんなスタイリッシュなスタイルに合わせるべく考案されたのが、イヤリング、ブローチ、リング、ネックレス、時にはブレスレットをセットで揃えるコスチュームジュエリーでした。
人気を取り戻した真珠の輝き
Colouring: Pierre Tourigny from Gatineau, Canada, Public domain, via Wikimedia Commons
1940年代は戦時中ということもあり、多くのジュエリーの素材が装備品の製作のために徴収されてしまいました。そのため、多くの真珠は養殖のものが使われていました。
しかし戦争が終わり素材をふんだんに使えるようになると、多くの女性が真珠のネックレスやイヤリングを買い求めるようになっていきました。これにより真珠は、非常に人気のジュエリー素材として認識されていきました。
流行した真珠の付け方は、細い真珠のネックレスを何個も重ね付けして、さらにイヤリングでも何個も真珠がついたものが好まれていたようです。
ジュエリーの解放
戦時中は非常に抑圧された期間でもありました。女性が昼間にジュエリーを堂々と着けて歩く事は、下品なことと思われてさえいたのです。
しかし戦争終結後にはその抑圧された思いを発散するかのように、多くのスター女優が広告などで昼間の服装にジュエリーを着けている姿が宣伝されるようになりました。
この結果、夜間のみならず昼間でも小ぶりの真珠のブローチなどを身につけて外出することに違和感を感じる人は徐々に少なくなっていきました。
また、その影響もあり多くのデザイナーはアクセサリーをそのまま販売するのではなく、服自体に縫い付けたり貼り付けたりしたものを発表していきました。これによってアクセサリー、ジュエリーと服との境目は少しずつなくなり始めていきます。
美しい色合い
Boris Chaliapin for TIME Inc., Public domain, via Wikimedia Commons
つらい冬を耐え抜いた花たちが、春の暖かい日差しに誘われて一斉にその美しい花びらを広げ、芳醇な香りをそこかしこに漂わせるように、女性のファッションの世界でも鮮やかな色彩が蘇ってきました。
彼女たちは唇にまばゆいほどの赤い口紅を塗り、その美しさを競い合いました。
そんな彼女たちの装いの変化に合わせ、アクセサリーも非常に色彩豊かなものが増えていきました。特に人気の色となったのが白、アイボリーなどの高貴な色と、ターコイズ、ゴールドなどでした。
特に白とアイボリーは黒い服によく映え、当時の女性たちの人気の色となっていきました。
受け継がれるプラスチックの人気
1940年代の記事でもお話ししましたが、当時ベークライトと呼ばれる安価で壊れにくいプラスチックが市民権を得ていました。
しかし1950年代に入り、戦争の装備品の素材として使われていたルーサイトがその必要性を失い、多くの在庫が残りました。デザイナーたちはこの素材の”透明感”に魅せられ、多くのアクセサリーを発表しました。
ルーサイトはその透明度の高さから、その中にキラキラとしたラメや貝殻、星の飾りなどを取り込むことで、独自の進化を遂げていきました。
これが当時の解放的な雰囲気と非常によくマッチングし、女性たちに諸手を持って受け入れられていくようになるのです。
クリスチャン・ディオールとスワロフスキー
Martin Greslou, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
当時流行の最先端をいく8ラインの”ニュールック”を本当の意味で完成させるために、ディオールはアクセサリーと服との融合が必要であると気づいていました。
そのため、クリスチャン・ディオールは1956年に、スワロフスキー創業者の孫であったマンフレッド・スワロフスキーと共に開発を進め、ついにディオールのビジョンを具現化する特別な素材を作り出すことに成功します。
それが”オーロラボレアリスストーン”と呼ばれるストーンでした。
”オーロラボレアリスストーン”は当時流行していたカットクリスタルと比べて、特筆すべき特徴がありました。
それがオーロラのような複雑で美しい光であり、ニュールックに新たな魅力をもたらしました。またクリスタルのように、着ている服の色を反射して放射するという性質も併せ持っていたこともあり、多くの女性がこのストーンを身につけるようになりました。
これにより、ディオールの作り上げたニュールックはさらなる高みへと昇華したのです。
カクテルリングの流行
JewelsExpert, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
カクテルリングとは、大きな宝石(模造宝石)やラインストーン、ルーサイトや金属などを組み合わせて作られたリングのことで、カクテルパーティーなどで身につけることからカクテルリングと呼ばれるようになりました。
コスチュームジュエリーが大きくなるにつれて、このカクテルリングのサイズもどんどん大きくなっていきました。
豊富な種類の素材を組み合わせて作れられるため、非常に多種多様なリングが生み出され、消費されていきました。特に一時期流行したアール・デコもそのデザインの中に組み込まれていきました。
ピアスの復権
1920年代まで、今では信じられないかもしれませんが、当時の上流階級では耳に穴を開けてピアスをすることはあまり好ましく見られていませんでした。現代で言えば不良のように見られてしまったようです。
しかしそれは1951年に王位を継承することとなったイギリスのエリザベス王女によって覆されます。
エリザベス王女が王室からピアスを贈られそれを着用すると、多くのイギリス人女性がそれを真似てピアスを着けるようになったのです。それはやがてヨーロッパ全土へと広がりを見せ、遠く離れたアメリカにもその人気は拡大していきました。
その後一旦はその流行も廃れますが、その後の1960年代にヒッピー文化が花開くと同時にその人気は再燃することとなります。それはまた別の機会にお話しすることとします。
いずれにせよ、ピアスの人気が高まるにつれアメリカではより長くて重いアクセサリーで耳を美しく飾ることができるようになり、フープピアスと呼ばれるリング状のピアスがいくつもデザインされ、当時の女性の耳元をユニークな装飾でデコレーションしました。
このようにして、1950年代の女性たちはより自由に、女性らしさを謳歌することができるようになりました。この頃のヴィンテージアクセサリーは、そんな気風を象徴してか今までよりもグッと鮮やかにカラフルなデザインとなっています。
1950年代のヴィンテージアクセサリーには、新しい時代の到来を感じさせる風が吹いていたのです。
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当ブランド、カントリージェントルマンではそんな自由な発想でいくつものヴィンテージアクセサリーを制作しています。アンティーク素材の持つ気品を楽しむことができます。
例えばこちらはWhiting社のKing Edwardと呼ばれる、1901年に発表されたヴィンテージフォークから制作した、ヴィンテージフォークバングルです。
フォークという素材の珍しさと、100年という時を超え現在に生まれ変わった希少性が、作品に重みと貫禄を与えてくれています。
こちらは1815年にアメリカで設立されたWallace社が、1941年に発表したGrand Baroqueと呼ばれるバターナイフから制作した、ヴィンテージバターナイフバングルです。
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