紳士は基本的に、余分な装飾品は身につけないものとされています。
華美なネックレスやブレスレットなどはもってのほかで、個性を出せる部分はもっぱら胸元のハンカチーフかカフスリンク、または時計か革靴などで自らのスタイルを表していました。
しかしそんな紳士のファッションにおいて、1つだけ例外があります。
それが【Signet Ring(シグネットリング)】と呼ばれる指輪でした。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Baronnet-signet-ring.JPG
今回はその”紳士の指輪”とも呼ばれるシグネットリングについて、知られざる歴史を紐解いていきたいと思います。
※シグネットリング といえばイギリス紳士が身につけていることで有名ですが、実は世界中にシグネットリング は存在しています。
詳しくは別の記事(シグネットリングはイギリスだけのもの?<世界のシグネットリングをご紹介>)をご覧ください。
シグネットリングの始まり
シグネットリングの歴史は古く、その始まりは紀元前およそ3500年前のエジプトまで遡れると言います。
こちらは円環の側面に絵が彫られており、それを回転させることで印を刻むことができるメソポタミア文明時代のものです。

https://sites.google.com/site/completearthistory/non-western-art/mesopotamian-seals
その後王たちは自分の名前や自らを示すための印などを刻んだ指輪を身につけるようになりました。これがシグネットリングの始まりとされます。
この頃から、権力者たちは法的文書や自らの宣言の公式性を認めるために、このリングを印として用いていました。
初めの頃はこれらのリングは石や陶器、象牙などで作られていましたが青銅器時代以降には金属の加工が行えるようになり、
徐々にリングの材質は金属へと移行していくことになります。
シグネットリングの隆盛
その後も権力者が「これは自らが認めたものである」ことを示すために、シグネットリングを使用するという文化は続いていきます。

中世になると、ほとんどの貴族がこのシグネットリングに家紋などを彫り込んだものを身につけ、手紙やその他の重要な書類に署名し、最後にこれを封印するために使用しました。
この点から、日本で言えば印鑑に当たるものがシグネットリングであったとも言えます。
その後14世紀になると、エドワード2世によって「全ての公式な文書はシグネットリングがなければならない」と定めたことにより、シグネットリングは公的に非常に重要な意味を持つことになりました。
「この書類は本当にあの人が認めたものなのか」「この文書は正式なものなのか」などを判断する上で、シグネットリングはもはや必要不可欠なものとなっていったのです。
市場にシグネットリングがあまり出回らない理由
これは余談になりますが、現在市場には状態の良いシグネットリングはほとんど出回りません。
その理由は、所有者の死後にシグネットリングは破壊されていたからだとされています。
例えば国王Aが死んだ後に、そのシグネットリングが残っていればそれを使ってどんな偽造文書でも簡単に作り出すことができてしまうため、

多くの場合シグネットリングは所有者の死後に儀式とともに破壊されるのが通例となっていました。
そのため、現在では中世のシグネットリングを見つけることは、非常に至難の業と言えるわけです。